のけ者

ステファン・ボンガルトネールが窓辺で星空を眺めながら…

「この夜空の奥には、今、目に見えているのと同じくらい多くらい多くの星が隠れているはずだ。でも、そのすべてを合わせても、植物の種一粒分くらいの大きさにしかならないだろう」彼の思春期は精神をできるだけ遠くまで羽ばたかせることに捧げられた。ときには他の誰よりもはっきり無限を思い描いたと確信して、優越感に浸ることもあった。彼は日夜、自分の限界を押しひろげるために努力を重ね、そのために心身ともに疲れきると、奇妙なめまいに襲われた。ちょうど悪夢に吸いこまれていくときみたいに、足もとの大地が崩れさって、星の煌く深淵に落ちていくような感覚に捉われるのだ。その瞬間が去ると、彼はまた精進を続けて、また同じ感覚に捉われた。彼はいつか不具となった者たち、愚かな者たち、不幸な者たちの中から偉大な人物が現れて、人の生きる本当の理由を教えてくれるはずだと信じていた。そして、その偉大な人物には何としても自分がならなければならないと思いこんでいた。蟻を相手に遊んでいると、彼には自分のちょっとした手の動きが、人間界を見おろす巨人の身振りのように思えてきた。だが、歳とともに、かれもそんな大それたことは次第に考えないようになった。一度は他の誰よりも遠くに行ったことがある―そう思うだけで満足して、自分の限界を受けいれるようになったのだ。それと同時に、彼は少しずつ同胞たちに目を向けはじめた。あいかわらず心の底では「あの連中が何をしようが、広大無辺の宇宙の前では何の意味もない」と思っていたのだが、それでも、同胞たちが卑小な存在であるからこそ、正義を追及することが大事なのだと考えるようになったのだ。いろんな不正を目の当たりにし、貧困にあえぐ人々の横で一握りの人間が贅沢に暮らしているのを知るにつれて、彼は孤独を感じるようになった。彼には人類の理想の姿があった。彼の夢は皆が平等で同じ権利を持つ社会、善意の行きわたった社会を実現することだった。彼は皆が平和に暮らせるときが近づいていると確信していた。また、一人一人が安らかな社会の到来を心から願い、そのために努力すべきだと信じていた。だから彼は両親が用意してくれた地位を捨て、人々の模範になる道を選んだのだった。                  p29

ステファンの夢想は現実に対処するには困難で、やがて家を継いで一介の仕立て屋にならざるを得ない。
この世界では理想だけで生活はできない。発言力や権力…世界を揺るがす力が必要だ…

のけ者

のけ者


コスモポリタン的パリ多くの人にとって一つの憧憬としてあるのだろう…