虚な時間を共に過ごした日々

祖父母の実家のブロック塀が壊れ落ちてきたとの事だったので、見に行くとなるほどこのままではいずれ南海大地震とかが来たら崩れ落ちて近隣どころか子供に被害が及ぶであろうと推測された。

なので以前から懇意にしていた今は不動産屋のs本課長に連絡を取る。

だか即留守になる。

何度電話をかけても即留守だ。

以前話した時に入院してると言っていたので今もまだ入院中で取れないのかと間を置いて何度かかけた。

何度かけても即留守になるので、その日は諦めた。

そして何度か日にちをおいて何度か電話をかけた。

だか何日かしても一向に連絡は来なかった。

嫌な予感がして、誰か共通の知り合いを考えたがいなかった。

はたと思い出したのは今はコンビニのオーナーであるかつて同じ職場だったの昔の上司だった。

コンビニに電話すると、ここではなくて別のコンビニで22時から今日は勤務との事だった。

虚な気分で22時迄待った。

電話すると彼はすぐに出て

「kですと」私が名乗ると、どうした?と返事があった。ちょっとsさんの事でと言うと

「亡くなったよ、去年だよ」と言った。

私は茫然とした。

彼が話したのは全てTwitterにs本さんが載せていた事ばかりだったが…。

私は仕事中にお忙しい所ありがとうございましたとだけ最後に言って電話を切った。

中島らもが言っていた言葉を思い出していた。

この世は生き別れか死に別れしか無いのだと。

生き別れか死に別れの2択かよ…と一人で時の間に埋もれていた。

そして…おいS課長よ!

サヨナラも言わせなかったのか?と

だが、彼の生き様にはそのような仕方しか無かったのだろう。

彼と似ている所も私にはあった。

まあ、違う所も多かったが。

 

彼との初めて会った時の事は強烈に覚えている。

バイトで入った若造な私に

「おい、これ違うだろ!きちんとしろよ」と怒鳴りつけた。私は何だこいつと思ったが、色々と話しているうちに打ち解けて。

彼の身のうちやその直情にいつのまにか慣れ親しんでいた。

私の結婚式の司会を彼に頼んだのも私が彼を信頼していたからに他ならなかった。

堺で自宅を買ったのも彼に任せたし、大阪市で私が精神の危機に瀕していた時も不動産の助けを借りたのもやはり彼に頼むのがベストだと思っていたからに他ならなかった。

私としてはせめてサヨナラくらい言わせて欲しかったが、彼にしたらサヨナラなんか言わねーよ。俺はまだまだ生きるんだからな、と言う気持ちだったのだろうなと思う、最後まで…。

彼の生き方はアニメの映画、バケモノの子を思い出させた。

そしてまた、彼と話した映画の話を色々と思い出したりした。

旅客機でのハプニングの映画を撮りたいねとか、一緒にスナックで歌ったスピッツのロビンソン。

彼が乗ってた車。記憶にあるのは最初はランドクルーザーで次にBMW次にプリウスだった。

くっそーと思った。俺が死んだ後に俺の住之江の不動産を知ってるのは彼だけなので、俺の死後に俺の息子達にその事を伝えられるのは彼だけだと言う思いもあったのに…俺より先に逝くなんて…。くっそーと酒を煽っているといつのまにか寝てしまっていた。

ふと目を覚ますとかなりでかい蜘蛛がのそのそと壁を伝っていた。電球の光で反射したその蜘蛛の目はひとつだけ頭の中心で光っていた。

私は命の移りゆく様を考えて、この蜘蛛も彼の生まれ変わりかも知れないなと考えて、蜘蛛を叩き潰すのはやめにした。

わたしもいずれ、死んで…。

蜘蛛に生まれ変わって。息子たちの元に密かに近づいたとして彼らは忌み嫌うだけだろう。

蜘蛛として生まれ変わった私は、人間であった微かな記憶を元に成長した息子に寄り添いたいと思うが、人間である彼らは私を叩きのめすだろうと思ってその場を逃げるより他は無いのだろう。

私に少し近づいた蜘蛛は彼の生まれ変わりかも知れないなと思って。サヨナラを言わせなかったのはここでまた会うためか?と聞いたが種が違えばもう無理だよとその蜘蛛が言ってる気がした。

私は涙は流さないよ、それがあんたの望みだろ?

私は再び「バケモノの子」を見て父のいない私は彼に育てられてていたのだと思った。

サヨナラだけが人生だ

そのサヨナラを言えなかったのは私には後悔だが

彼にとっては成功だったのかも知れなかった…。