ウクライナの星

 或ビルのお客さま宅へ訪問した。不在であったので、近隣に聞き回ったがどこも留守で。上の階の電気メーターが高回転している部屋があったのでここには誰か居るかなと思いピンポンを押すと中から出てきたのはうら若き乙女で金髪の美少女であった。背は低くその純粋な目が魅力的だった。
 せめて居住の確認はしたいと思ったので大家の連絡先を聞こうと「このビルの管理人の電話番号は知ってますか?」と聞いた。彼女は「日本語は少ししかしゃべれません、管理人?ホワット?」と聞いてきたので。しどろもどろになりながらも英語で伝えようとするが理解されず、とっさにフランス語ならできるので、「フランス語はしゃべれますか?」と聞くも首を横にふるばかりで。「どこ出身?」と聞いたが少し躊躇して「ウクライナ」と彼女は答えた。
 ウクライナ?また遠い国だ、しかも政治も疲弊し経済状況もかなり悪い国だ。そんな国の人がこの日本の地方の田舎で来てどのような仕事をしているのか、或いは留学生として何を勉強しているのかと訝ったが。私は入国管理官でも無く警察官でも無いので不問にした。すると待ってと手で合図をしてその女性は部屋の奥へ行った。そして一人の女性を連れてきたが、風呂上がりかバスタオル一枚だけ羽織った背の高い黒髪の女性が現れた。そして大家の携帯しか解らないが…と言って携帯番号を教えてくれた。
 ありがとうと言って部屋を出る際にその長身で黒髪の女性は今度、もし私達が困ったら助けてねとウィンクして握手を求めてきた。
 私は唯、この地方都市に押し寄せる国際化の波と日本と第三世界との経済格差とをしみじみ考えながら、日本人の嫌う重労働で汚く厳しい仕事やまた裏社会で求められる仕事、そして風俗関係で日本に滞在する仕事に従事する外国人と呼ばれる人々を影ながら応援するだけである。私もまたこの日本では忌み嫌われるべきこの仕事を通じてなんとか去勢されるのを恐れながら住む人の手助けになりたいと願う他はなかった。
 そして私が出逢った彼女がウクライナの星として活躍するように。祈るばかりである、そう祈る事しか今の私にはできる統べがないから…。