鬼押出

 朝食を食って再び宿の温泉へと入った。
 昨日も思ってたが…風呂は江戸っ子使用か物凄く熱い。うーとたまらず声をあげながら入る。
 風呂の湯で顔を撫でると口に入る温泉が酸い感じ。しかし昨今の温泉偽装ともいうべき事々が多いので、ちゃんとした温泉の証かと一安心。

 草津よいといこ♪一度はおいで ハドツコイシヨ と鼻歌
 しかし長風呂は危険。
昨日は少しばかりいや普段よりは短い目だが風呂から上がると立ちくらみをした。
 そして鬼押し出しへと急ぐ。
奇岩に積もった雪の白さと溶岩の黒い巌との景観は以前とは違いそれはそれでまた情緒があったが雪の為に閉鎖された遊歩道も有り今回全てを楽しむ事が出来なかった。
園の遊歩道のかしこに立つ灯籠を眺め「これはなんの為やろ?」と細君が聞いてきたので私は青鬼と赤鬼の弔いの為やと口からでまかせ。それを察知しているのか「本当?適当?」とズバリ。
 しかし青鬼と赤鬼の挿話を悲しい説話としてその肉体なり精神を犠牲にして蔑む他人の為に自身の身を傀儡とし逆に自分を蔑まれる対象としてなりさがった鬼の気持ちを…人間から差別されるべき鬼の精神を限り無く貴いものだと涙が溢れた。
 架空の挿話の鬼の為に静かに涙を流す私には醜い人の世がなおも醜く思えた。
 そう思っていると一つのフレーズが脳裏をよぎった。
世界は美しくなんかない。そしてそれ故に美しい。と