失踪

 友達が失踪してもう何十年と経った或日の事。
そいつは植物人間になっていたと初めて知った…。
 あまりにも少しの意志の疎通しかできなかった。
 両親や兄弟姉妹には友達や誰にもこの状況を教えないでと言っていたそうだ。
彼の悲しみを誰が理解できるだろうか?
 失踪した当時は誰もが皆心配していた…。急に携帯も止まって、年賀状も返信は来ず…。携帯もそのうちに不使用になり。連絡もよこさねえと或友人は憤っていた。
 だが今日の日の真実。
 その理由を知って病院まで来た。
 私は呆然と彼の寝顔を病院の一室でここまでの彼の消尽された青春の蹉跌と逆説に祈りを捧げた…。
 眠る彼の夢を想像しながら…。
 夏の暑い日の最中にハンマーが降り降ろされ一瞬にしてそれこそ消尽して行く…。
 蝉がただ鳴き続けるこの地上で足下に転がっている蝉の屍骸とを対比させながら、無常感だけが通り過ぎて行った。