導きたる感謝

 或老婆が病気になりどうしても支払いが出来ない状況になった。

 その老婆はすまない、すまないと繰り返すばかりだった。今月は体も動かない、その為今月の支払いは全く困難だが来月は年金で一括返済が可能だから待って欲しいと言った。その口調もだが説明も理路整然としていたので私も了承した。が…、本社からは今月の早期回収が無理なら地獄へと導くのだと言う伝達が来た。私は苦渋の思いで、従う事にした。どうあがいても本社に逆らえばつまりは私の死に他ならないから…。
 その旨を老婆に伝えると、老婆は澄みきった目で「ええ、よござんす。私としても、親兄弟、親戚、友達、全てにあたって無理だった事をそちらさんに助けてもらった恩は忘れません。感謝しても、しきれません、あの時の助けは何ものにも変えがたいですさかい」と言って「地獄がどれ程のもんかしりませんが、喜んでまいらせてもらいます」と言った。
 私は自分の仕事を呪いながらなおかつ、その老婆の感謝の気持ちを受け取りながら。自分の全身全霊を、他人の喜びの度に、逆に怒りをぶつけられる度に。この事を思い起こすだろう。
 私の目の下に限り無く透明な一筋の水が落ちていった。