西荻窪にて

 東京2日目、以前は石神井を目指したが今回は西荻窪へと向かった。パリで出逢った友達が東京に住んでいて会おうと言っていたが急遽用事が出来たとの事で時間をもてあましていた。仕方なく気になっていた西荻窪へと行ったがどうという事の無い日本の町でその日は凄い風が吹き荒れまるでこの土地は風の町であるような錯覚に陥った。初めての土地と言うのはそこに長年住まないと解らない。
 以前チェコは首都プラハで滞在が飛行機の関係で2週間程居たのであまりにも暇で日本大使館に行き日本の新聞を読んでいると。旅行者まるだしの女性がやってきて置き引きにあったと大使館の人に説明していた。
 「はい、鞄が盗まれたんです。別にたいした物は入っていませんがこの旅行の際に出逢った人達の連絡先やアドレスが書いた手帳だけはなんとか取り戻したいのです。もうそれさえ戻ればどうでもいいです。」と言っていた。確かにその気持ちは解らなくもないが、その後「もうこんな所には居たくありません全て台無しです、明日にはここを出たいのですがそれまでにどうにかなりませんか?」と大使館の人に言っていた。大使館の人もそんなにすぐに見つかる物では無いと説明していたが、その際の彼女の憤怒の表情が忘れがたかった。
 訪れた土地と言うのは旅行では尚更一時の時間なので、嫌な目に逢えば印象は悪くなるし人との大事な出逢いや面白い発見が有ればその土地の印象は良くなる。私はただ行こうと思っていた浅草やアメ横の情景も忘れ…唯々、西荻窪の風に身を任せて、風にたなびく雲を唯何時間も眺めていた。