モスクとドナドナ

 友達の結婚式に行った。今年に入り、高校時代と中学時代の友達と立て続けに3件程結婚式に行った…そして今日は、パキスタンで出逢った或友の結婚式が神戸のモスクであった。
 2時間前にそのモスクに着いたが早いので北野の異人館の辺りをうろうろとした。以前のフランス、イギリス、ポルトガル等の領事館跡を眺めながら、昔日の時代に戻って自分自身がまるで維新の新しい時代の寵児となったかのような錯覚に陥った。そろそろ時間だなと思いモスクへ戻る途中ふとジャイナ教の寺院が現前に現れた…。そのひっそりと佇む寺院はまるで現在の忘却の彼方に忘れ去られた遺物であるかのようであった。
 その寺院を下から眺めていると、髭もじゃの老婦人がトコトコと現れ寺院の門に跪き黙礼をし「それぞれの信念の下に…。」と言いながら寺院へ入っていった。
 モスクへと帰る道すがら、祈りが人間の持つ重要な一部であるという気がしてならなかった。
 結婚式では羊が一頭ほふられて皆に振舞われた。人間のはれの日に提供されるべき肉。私はいつか小豚の様に丸焼きにされる時が来るような感慨に襲われぞっとした。あるいはドナドナの子牛のようにどこか知らぬ土地に売られるのを想像した。自由な命と引き換えに、巨万の富を得るごとく…。