兎の穴と猟師の賭け

 回収に大阪は貝塚へとはるばる向かった。裁判所で調停で和解をしたにもかかわらず支払いが滞っている或お客様の団地へと…。支店を出る時に店長から「あの人達は家に居ても出てこないよ、私が会ったのは偶然帰ってきた時くらいさ…ま頑張ってくれたまえ」と聞いていた。そして今、腐れ落ちる寸前の団地が目の前にあった、すでに帰りたかった。しかたなく5階の債務者の部屋の前に来たが…どうも、先入観で半ばあきらめの気持ちながらドアを叩くがやはり全く反応は無い…それよりドアを強く叩くとこちらに倒れてきそうで不安だ。10分くらいでもういいやと帰ろうとすると、上の階からまるで、乳牛をより大きくしたおばさんがドスン、ドスンと地響きを立て降りてきた。そして、おもむろに片手で私をはね除け、今まで私が叩いていたドアを叩き、「ツギやん、こら出てこい。こんな面倒な事してても仕方ないぞーーー」と、どなりだした。そして私に顔を向け「あんた、どこの金融屋だい?」と聞いてきた。私は、あまりの唐突さに「ベルゼブブ・ファイナンスです」と率直にかつ正直に答えた。乳牛大はそれに対して答える事は無く、私を一瞥した後なおも執拗にドアを叩きまくった。私はあっけにとられていると。「10年間も毎日だよ…親戚の私でさえこんな調子だからね全く…。」と一人言を言った。
 蔑まれる仕事>金貸し、風俗、ヤクザ、シャブ売り、し尿汲み取り、肉解体作業、ホスト、ゴミ収集、地上げ屋…。あらゆる差別される仕事をしてきた、もしくはかかわった私は、その差別の狭間で何を感じたろうか?ここで起きている事は現実だ、どこへ逃げたって付いてくる。自分一人なら何をしたってかまわないさ。しかし、山奥にこもらないかぎり、人と人のつながり、つき合いは避けては通れないぜ…。いや、山奥へ隠ったって自然と向き合って折り合いをつけねば…。
 
 大地の草花は枯れようとしていた、そこに住む兎達は別の場所へ安住の地を求めようとしていた、しかし猟師がそれを許す事は無い。猟師も生きる為に命がけだから…。