紫天蝶送別会

 紫天蝶の送別式、第2。送別会ではなくて…。いつもの韓国料理屋で…。
 盃を干す髑髏。兄弟桃。うたかたの日々と絶え間なく走る日々、そして走る電車に飛び乗るべき未来…。
 餞別に爪きりをプレゼントしたドイツ製の…。
 切る、そうキル!これは縁起担ぎ、未来を切り抜けろ!
 紫天蝶はしきりに「ファック!!」と呟き、やがて目にうっすらと涙をためた。
 ビールで紅く酔った顔は赤ら顔がよりいっそうと紅く、まるで赤鬼のごとくであった。このビールもドイツ製か?どいつんだ?と日頃聞かない日本語の駄洒落もとびだした、しかし座の空気はシーンとした。唯料理屋の女将だけがその空気がおかしいらしく、くすくすと笑っていた。
 カラオケでは歌う事が少ない彼は今宵ばかりは皆で歌おうと言い出した。
 ビリー ジョエルやジョン レノン、クイーン、グリーン デイ と歌い終えるとラーメン屋へと向かい餃子とビールとラーメンを交互にガツガツと食った。
 もうすぐ桜が咲く季節ですよと言うと「オー、ビューティフォー!イエス!!」と叫び桜の咲く間は日本に滞在するのだと誓っていた。
 最後に裸のつき合いもと嫌がる彼をスーパー銭湯へとつれてゆき日本人はここで日頃の疲れを癒すのでーすと、電気風呂へと案内すると「オー、マッドネス!ジャパニーズ ピーポー クレイジー!!」と叫んでいた。
 そして最後に朝一の飛行機でロンドンへと見送った。来週桜の咲く頃にはもう一度来ると何度も念押しする彼に、実は美しい桜の木の下には醜悪な屍体を埋めるのが日本の習慣で、だから桜は逆に美しいのですと、小陸さんが教えていた。
 彼は目をまんまるとびっくりした表情でやはり来るのはよそうかなとポツリと言って静かにタラップを登っていった。