繋がれたロバ

 雪が限り無く積もっていた。寒い寒いとは言いながらもチベットの冬よりはましかなと思えた…。実際ゴルムドからラサ迄のバスはバス内の醜悪な汚さと高地へと向かう際の高山病で全く死の行路であった。ラサに着いた日は誰もがベッドに横たわり静かに体調の回復を息も絶え絶えに過ごしていた。
 そうあれはどこの雪山であったろう、その村を目指したのは何千年も前に造られた塔が村の頂きに聳え立ちその内部の異様な仕掛けと今も尚、綿密なる計画により造り続けられていると言う事であったが解放地区では無いので旅行者は立ち入りを禁じられているとの事だった。
 密入村?するには噂では、その村の近くの町へ一日に一本のバスで行き、さらに乗り合いトラックでその近くの村へ入り、そこで駱駝に似たロバを借りて進まねばならぬとの情報であった。一日かけて村に着きロバをチャーター?し塔の村を目指したが途中の雪は限り無く雪をかき分けて自分の目の高さに家の屋根が連なる道を歩んだ…。
 道無き道を進みロバの動くままに進み、予定より5時間遅れてその村に着くとすでに夜の23時で仄かな塔の先の灯りがてっぺんに揺らめいていた。目指したホテルが見えるとロバを近くの木につなげ、急いで向かった。雪に埋まったそれはホテルとは言いがたく普通の民家で屋根だけが見えてどこから中へ入るのかと考えていると屋根と家の境目にドアノブが微妙に見えそこを叩くと中から眠たそうな男の声がしてバサッと雪の落ちる音と共に扉が開いた。
 私はスリープ、チェックイン・プリーズとだけ言うと中から出た男は分かったと手招きをして、部屋の鍵を渡しのろのろとカウンターへ戻りいびきをたて眠りについた。そこも迷路のようなホテルで寒い中を30分程渡された鍵の305号室を探し見つけ中に入り暖房をつけて「ふう」と一息、備え付けの熱いお茶を飲み、煙草を吸ってからすぐ眠りについた。
 朝起きると雪という雪は辺りに全く見当たらず、まるで昨日の寒さが嘘のような日の暖かさであった。すぐに連れてきたロバが心配になり、探すが見当たらない。頭の上の方でなにやら声がするなと思うと何と木に繋がれたロバが空中でヒヒーンとぶら下がりながら木のてっぺんで足をバタバタさせながら、こちらを恨めしそうに見ていた…。