悲しみで満たされた嵐

 嵐が吹き荒んでいた。ただ悲しみが通り過ぎているかのようであった。
 人々の悲しみはいったいどこからくるのか…?
 私がその頃悲しみの渦の中にいたとは他の人には分かるはずもないであろう。
 パリが懐かしく思えて仕方がなかった。何故だろう?あのコスモポリタン的旅情、故郷喪失的寂寞、雨の降りしきるまま。いや例え雨がふらなくても、街の道には、ゴミと流れる小さな川があっった。そして犬の糞と。
 その、小さな流れを眺めながら当て所の無い感情だけが俺の心を少しずつなめるかのように洗っていくのであった。
 その頃はブレスト出身のマドレーヌと毎日のようにセックスをしていた。彼女のアパルトマンで、俺は彼女が仕事を終えるのを待つと、部屋の片付けや、食事の支度を終え、いっしょにスパゲティを(大概スパゲティが多かったのだが。) 食べると、すぐにセックス(フランス語ではメイクラブすなわちフェー、ラムール)にいたるのが日常であった。